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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)556号 判決 1998年9月25日

新潟県南蒲原郡下田村大字上大浦四七四番地

控訴人(一審被告)

バクマ工業株式会社

右代表者代表取締役

馬場幸一

右訴訟代理人弁護士

坂井煕一

斉木悦男

右補佐人弁理士

近藤彰

兵庫県三木市大村五六一番地

被控訴人(一審原告)

株式会社岡田金属工業所

右代表者代表取締役

岡田保

右訴訟代理人弁護士

酒井信次

田中稔子

右補佐人弁理士

大西健

主文

一  原判決主文第一ないし三項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、別紙被告替え刃目録一記載の鋸替え刃について別紙被告標章目録記載の標章を付して製造販売してはならない。

2  控訴人は、被控訴人に対し、三九万六九五六円を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その七を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決の第一項2は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、被控訴人が、(一)主位的に、不正競争防止法違反(周知商品表示混同惹起行為)を理由として、別紙被告替え刃目録記載の各鋸替え刃(被告替え刃)の製造販売の差止め及び損害賠償を、(二)予備的に、本件商標権の侵害を理由として、別紙被告替え刃目録一記載の鋸替え刃(ハ号物品)に別紙被告標章目録記載の標章(被告標章)を付して製造販売することの差止め及び損害賠償を求めた事案である(「被告替え刃」等の略称は、原判決のそれによる。)。

なお、被控訴人は、原判決において、実用新案権侵害を理由とする被告鋸柄の製造販売の差止め及び損害賠償を求める請求を棄却された部分につき、控訴を提起していたが、その後これを取り下げたため、右部分は不服の対象となっていない。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実」欄の「第二 当事者の主張」(ただし、実用新案権に関する部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する(原判決四頁末行から五頁二行目まで及び同一一頁九行目から二四頁二行目まで)。

【原判決の訂正等】

1 原判決一三頁五行目の「商品形態は、」の次に「遅くとも平成元年ころには、」を加える。

2 同頁七行目の「平成」から九行目の「という。)を」までを「別紙被告替え刃目録記載一の替え刃(以下「ハ号物品」という。)を平成六年一月以降、同目録記載二の替え刃(以下「二号物品」といい、ハ号物品と合わせて「被告替え刃」という。)を平成五年一〇月以降それぞれ」に改める。

3 同一六頁八行目、同一七頁八行目及び同一八頁二行目の各「販売」の前にいずれも「製造」を加える。

4 同一七頁八行目の「侵害する。」の次に「これにより被控訴人は前記12と同額(ただし、ハ号物品による損害額)の損害を被った。」を加える。

5 同一七頁一〇行目の「実用新案法」から同頁末行の「とともに、」まで、同一八頁三行目の「実用新案法二九条二項、」をそれぞれ削除し、同頁四行目の「二項一号」の次に「、商標法三八条二項」を、五行目の「本件」の次に「原審」をそれぞれ加える。

6 同頁九行目の「ないし4」、同行の「ただし、」から同一九頁三行目までをそれぞれ削除する。

7 同一九頁六行目冒頭の「商品の」の前に次の文章を加える。

「商品の形態がその商品の出所を表示する機能を有するためには、一般的には、商品の形態が極めて特殊独自のものであるか、形態上の特異性を有することが必要であるが、本件替え刃の形態は、極めて特殊独自なものではなく、また、形態上の特異性も有しないから、商品の出所を表示する機能を有するものではない。

仮に、本件替え刃の基部形状が特殊独自なものであったとしても、右形状は、回転着脱方式の替え刃式鋸の技術的機能に由来するものであり、このような形状は出所表示としてはこれを除外するべきである。すなわち、」

8 同二一頁六行目の「うち、」から八行目末尾までを「事実は認める。」に改める。

9 同頁一〇行目の「需要者は、」を「需要者の大部分は、大工職、建具職その他建築関連業者などの専門職の人であるが、右需要者が替え刃を購入する際の最大の関心事は、替え刃の切れ味、耐久性及び価格などであるから、需要者は、替え刃の製造者、販売者が誰であるかを重視するものであり、」に改める。

10 同二二頁六行目の「されているから、」を「されており、両商品は、登録商標及び商号により明確に識別できるものであって、商品形態がこれらよりも優先して商品表示となることはないから、」を加える。

11 同二二頁八行目の「事実」から九行目の「うち、」までを「うち、被控訴人が本件商標権を有すること及び」に、末行の「認し」を「認する」に、同行末尾の「、」を「。」にそれぞれ改める。

12 同二三頁一行目の冒頭に「10 同14の」を加える。

13 同二三頁三行目の「ものではない。」を「ものではなく、用語の接頭辞のように多用され、しかも、これを接頭辞のように使用した用語が広く日本語として馴染まれていること、また、特許庁における商標登録の審査においても、「ハード」の語句を商品の品質等を表示する用語であるとの理由で商標の要部判断から除外しておらず、かえって、「ハード」の語句を付加することにより、別の出所表示機能を具備するものとして、その登録を認めていることなどからすれば、「ハード」は、商品の品質等を表示する一般的な語句として取引の指標から除外されるものではない。」に改める。

三  主たる争点

1  控訴人の被告替え刃製造販売行為は、不正競争防止法二条一項一号(平成五年法律第四七号附則二条により同法施行前に生じた事項にも適用。周知商品表示混同惹起行為)に該当するか否か。

(一) 被控訴人が主張する本件替え刃の形態的特徴(<1>フック状の掛止め部の形状、<2>背凹部の存在、<3>刃渡り寸法の印刷表示)の商品表示性

(二) 被告替え刃の製造販売による出所混同のおそれ

2  被告標章は本件登録商標に類似するか否か。

3  被控訴人の損害

第三  証拠

本件原審及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(被告替え刃製造販売は周知商品表示混同惹起行為に該当するか否か)について

当裁判所は、被控訴人が主張する本件替え刃の形態的特徴(<1>フック状の掛止め部の形状、<2>背凹部の存在、<3>刃渡り寸法の印刷表示)は、いずれも商品表示性を有するに至っておらず、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく被控訴人の主張は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1  商品の形態は本来、当該商品の機能をよりよく発揮させ、あるいは、美観を高める等の見地から選択されるものであり、商品の出所を表示することを直接の目的とするものではないが、他者の商品との比較において形態自体に特異性が認められれば自他商品識別力を肯定することができるし、また、形態自体に特異性が乏しい場合でも、当該商品が大量に製造販売され、長期間経つとか、短時間であってもその形態を示した宣伝が強力に行われると、当初は機能や美観上の意味(第一次的意味)しか有しなかった形態が第二次的に商標的な意味(セカンダリーミーニング)を獲得し、自他商品識別力を具備するに至ることがある。そして、商品の形態自体に特異性が認められるか、長年にわたる大量使用又は強力な宣伝活動により自他商品識別力が肯定される場合には、その商品形態は特定の商品表示と認められ、不正競争防止法の保護対象となる。

2  当事者間に争いのない請求原因7の事実、証拠(甲三の二、四の一・二、七の一~三六九、八の一~二二七、九の一~一八、一四の一・二、二〇、二一の一・二、二二、二四、乙一四の一~三、二二、二三、二四の一・二、二五の一・二、二六、二七、二八の一・二、二九の一・二、三四の一・二、四六、五〇、五五、検甲一、二、一三ないし一七)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 替え刃式鋸の出現

柄に対して鋸刃を自由に取り替えることができるように構成した替え刃式鋸は、昭和四〇年代ころより、鋸刃の目立技術者の不足が顕著となる一方、鋸刃を激しく傷める集成材等の新建材の出現や目立てにかかる費用の高騰等の事情により、それまで一般的であった鋸柄と鋸刃を一体的に取り付けた鋸の不便さが顕在化したことから、製造、販売されるようになった。

昭和四四年ころ、レザーソー工業株式会社が製造、販売を開始した替え刃式鋸(商品名「レザーソー」)は、替え刃式鋸としては初めて大量生産、大量販売に成功した商品であるが、鋸刃を把持柄に取り付けた背金にはめ、把持柄に水平移動させて差し込み、把持柄の下縁に取り付けたネジを締め込むことによって、鋸刃を鋸柄に取り付ける(固定する)という方式を採用していた。

(二) 旧実用新案

被控訴人は、昭和五〇年には、「パネルソー」との商品名で、回転着脱方式の替え刃式鋸の製造、販売を開始し、右替え刃式鋸について実用新案(旧実用新案)の登録出願をし、実用新案権(旧実用新案権・実公昭五三-一六七四号)を取得した(右権利は昭和六三年一月一八日まで存続)。

旧実用新案においては、鋸柄に取り付けた鋸刃保持部(背金)内に側面形状が円弧状に形成された係止部を設け、鋸刃基端部(鋸刃の根元)に、係止部に係合する凹所(掛止め部)を基端部の刃の側(下方)から切り欠き形成し、かつ背部側(鋸刃の背)に連なる基端部の縁を係止部の円弧にほぼ沿って滑らかに背部側に連なるように形成することにより、右凹所を鋸刃保持部(背金)内の係止部に掛け合わせ、係止部を中心として鋸刃を回動させることによって鋸刃を鋸柄に取り付ける技術思想が開示されている。

右「パネルソー」の替え刃は、鋸柄への装着部となる基端部(以下「基部」という。)にフック状の掛止め部を形成し、右掛止め部から刃先部分に至るまで緩やかな円弧を形成した形状であった。

(三) 原告商品・本件替え刃の製造、販売

右「パネルソー」は、替え刃の背部全体にわたって背金を配置させる構造となっていたため、切断できる木材の太さが刃幅のものに限定されるという難点があったため、被控訴人は、右難点を克服するため、新たに背金を短くした回転着脱方式の替え刃式鋸「ゼットソー265」を開発し、昭和五七年七月にその製造販売を開始した。

さらに、被控訴人は、様々な太さの木材を切断できる鋸に対する需要者の要望を満たすため、昭和五九年八月に「ゼットソー8寸目」の、昭和六一年六月に「ゼットソー300」の、平成元年九月に本件替え刃2を装着した「ゼットソー仮枠333」の、平成三年三月に本件替え刃1を装着した「ゼットソー7寸目」の製造販売を開始し、昭和六三年一二月からは、これらの鋸及び替え刃(以下、これら「ゼットソー」の商品名で販売されている鋸及び替え刃を合わせて「原告商品」という。)の販売を子会社である訴外ゼット販売株式会社(以下「ゼット販売」という。)に委ねている(以下、被控訴人とゼット販売とを合わせて「被控訴人ら」ということがある。)。

本件替え刃を含め原告商品の基部形状は、ほぼ前記「パネルソー」と同様の形状を採っている。

(四) 本件替え刃の形態

本件替え刃は、左記の形態を有するものである。

(1) 本件替え刃の各形状の詳細は、原判決別紙本件替え刃「ゼットソー7寸目」、同「ゼットソー仮枠333」に記載のとおりである。

(2) 鋸柄への装着部となる基部は、その下縁から上方(背部)に向けて、半径三〇mm(ただし、本件替え刃2では五〇mm)の円弧部、半径二mmの円弧部、上下長さが七mm(ただし、本件替え刃2では一〇mm)の垂直状の立ち上がり辺部、半径五mmの半円弧状の凹部(以下「小円弧部」という。)、半径二mmの円弧部、左右長さが三・八mmの水平状の辺部、半径二mmの円弧部、上下長さが三mm(ただし、本件替え刃2では二・八mm)の立ち上がり辺部、半径一八mmの円弧部(以下「大円弧部」という。)を順次連続させた構成となっており、大円弧部と小円弧部とは同心円上にあり、右両円弧部によって、基部側上方位置にフックの掛止め部を形成している。

(3) 基部側の背部、掛止め部付近に深さ約二・三mm(ただし、本件替え刃2では約一・二mm)の凹部(背凹部)が存在する。

ちなみに、背凹部は、鋸柄との掛合せ機能とは無関係なものであるが、本件替え刃の製造工程においては、掛止め部周辺を成形するプレス加工と背部の曲線を成形するプレス加工とを別工程で行うが、僅かなプレス加工のずれによって背部に段差が生じることになるので、これを防ぐために、先に行う掛止め部周辺のプレス加工の際に、背部にへこみ(背凹部)を作っておくものである。

(4) それぞれの刃の側面(片面だけ)基部側寄りの位置には、本件替え刃1(原判決別紙本件替え刃「ゼットソー7寸目」)については「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、「7寸目」、本件替え刃2(同「ゼットソー仮枠333」)については「ゼットンーHI」、「ハード・インパルス」、「仮枠333」と横書き三段の印刷(ただし、「ハード・インパルス」は抜き文字で印刷)がされている。

ちなみに、「ゼットンー」と「ハード・インパルス」(本件登録商標)は、いずれも被控訴人の登録商標であり、「ゼット」はゼット販売の商号の一部であり、「7寸目」及び「仮枠333」は、いずれも鋸刃の長さ(刃渡り)の寸法表示であり、「ゼットソーHI」と「ハード・イソパルス」の印刷表示は発売当初から、寸法の印刷表示は昭和六一年からされているものである。そして、「ゼットソー」は、本件商品及び本件替え刃を含む「ゼットソー」シリーズの商品及びその包装にのみ付されており、「HI」及び「ハード・インパルス」は被控訴人らの他の商品(例えば「パネルソー」シリーズ)及びその包装にも付されている。

(五) 原告商品・本件替え刃の販売時の形態

原告商品の鋸刃(替え刃)部分及び本件替え刃は、いずれも錆を防止するために防錆紙で包装したうえで、外装袋に入れて販売されている。そして、右外装袋の表面には、替え刃を背金に装着した状態の形状(ただし、本件替え刃単体での販売用の外装袋については替え刃の全体形状)が、「ゼットソーHI」、「7寸目」等の商品名や「ハード・インパルス」という商標を記した帯状部分とともに印刷され、裏面には、替え刃の全体形状(黒塗り縮小図)や製造元が被控訴人、発売元がゼット販売である旨の印刷がされているが、替え刃の全体形状を外装袋に印刷するようになった時期を明らかにする証拠はない。平成元年ころからは、フイルムの一部を透明にすることにより、外部からも替え刃の一部が見えるような方法が採用されているが、替え刃そのものの基部形状までを視認することはできない。

(六) 原告商品・本件替え刃の販売実績、広告・宣伝活動等

(1) 被控訴人の製造した「ゼットソー265」は、我が国有数の金物産地である三木市において、昭和五七年度の新殖産品に指定され、同市により、全国の約八〇〇〇の小売店にダイレクトメールで紹介された。

(2) 販売実績

平成五年六月までの本件替え刃1、2の各総販売数は、それぞれ六〇万七〇八二枚、四三万二〇三四枚であり、同月までのパネルソー、ゼットソー等の同一基部形状を有する被控訴人製造に係る替え刃の総販売数は、約三八〇〇万枚である。

(3) 広告・宣伝費

被控訴人らは、原告商品全般を大々的に広告・宣伝しており、その新聞広告費用は、昭和五八年二月二八日から平成六年一一月二〇日までで、三七八三万〇五〇〇円である。

また、ラジオ、テレビ、カタログ等の宣伝広告費用は、昭和五七年四月一三日から平成六年一一月二〇日までで、二億〇四八〇万八二三〇円である。

(七) 広告・宣伝の内容

(1) 新聞広告

昭和六一年ないし六三年に業界新聞や一般紙に掲載された広告には、原告商品及び本件替え刃の全体形状が示され、「プロのアイデア」、「ワンタッチ」、「替刃式のこぎり」、菱ゼットマーク、「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」、被控訴人の社名等が横書きで表示されていた。

ちなみに、菱ゼットマークは、◇(菱形)内に「Z」、◇の右肩に「ゼット」と表示した標章であり(被控訴人の登録商標であると推認される。)、後記カタログにも同じ標章が表示されているが、原告商品の外装袋や後記テレビコマーシャルには、右肩に「ゼット」の表示がないものも使用されている(以下、これらを総称して「菱ゼットマーク」という。)。そして、菱ゼットマークは、「ゼットソー」シリーズ以外の被控訴人らの商品及びその包装にも使用されている。

(2) ラジオコマーシャル

ラジオでは、「ハードインパルスのゼットソーは集成材でもらーくらく」、「大工さん、まっすぐ切れますか?」、「切れまんがな、四角も二角もまーすぐ切れる、ゼットソー」、「岡田金属工業所です」との音声を流している。

(3) テレビコマーシャル

テレビでは、<1>昭和六一年度には、「人が時代を求める新しい道具を作る岡田金属工業所」、「企画・開発・製造と一貫体制のもとで伝統の技と最先端の技術が融合し、ゼットソーが生まれました。」、「菱ゼットマークは新たな伝統を築きます。」との音声を流して、被控訴人の「企画・開発・製造と一貫体制」のもとで被控訴人の替え刃が生まれたことを放映し、<2>昭和六三年度には、「ゼットソーは替え刃式の鋸、(刃先を取り付ける音)刃先はハードインパルス」、「(鋸で切る音)よく切れます。まっすぐ切れます。大工さんも使っています。」、「(刃を取り外す音)切れなくなったら新しい刃と取り替えて下さい。」、「ゼットソーはお近くの金物店・ホームセンターでお求め下さい。」との音声を流し、替え刃が一本の鋸柄をもって、かつ「ワンタッチ」で、種々の厚みの異なる鋸替え刃の装着を可能にするものであることと、四種類の替え刃(掛止め部・背凹部の形状及び寸法表示)を放映し、<3>平成三年度には、「(鋸で切る音)よく切れるなー おがくず積もれば山となる…か。」、「(鋸で切る音)あっ すごーい なにこれ!」、「ゼットソーブローハンドルが邪魔なおがくずを吹き飛ばす。」、「キャー!」、「風のイタズラ ゼットソーブローハンドル」、「お父さんも・大工さんもにっこり」との音声を流して、本件替え刃を含む七種類の替え刃の形状(掛止め部・背凹部の形状及び寸法表示)等を放映し、<4>平成五年度には、「ゼットソーのゼットって何?」、「それはハードインパルス加工だから長持ち抜群 切れ味抜群」、「さ・ら・に ここ!」、「用途に応じて取り替えられる替え刃式」、「なるほど」、「それでゼットなのね」、「ゼットソー鋸極めればゼットソー」との音声を流して、鋸柄に装着した本件替え刃(寸法表示)等を放映している。

(4) カタログの内容

平成三年ころ以降の被控訴人らのカタログには、<1>「ハードインパルスとは」と題する箇所に、「鋼(はがね)を一瞬、衝撃的に加熱したあと、急速に冷却すると、非常に硬い組織が得られます。この組織は、硬いだけではなく、靱性や耐蝕性に優れ、のこぎりの刃先には最適の条件を備えているわけです。この組織を得るための熱処理が、衝撃焼き入れです。当社製ののこぎりの刃先には、この処理が施されています。ハードインパルス(HARD IMPULSE)は、当社がこの熱処理につけた呼び名です。(登録商標 第1986814号)」との説明があり、<2>「ゼットの替刃式ノコ取替方法」ないし「ゼットの替え刃 取り換え方法」と題する箇所に、把持柄先端に取り付けられた背金の断面と替え刃基部の写真が掲載され、背金の支持部(鋸係止部)に「係止金具」、替え刃基部の凹所(掛止め部)に「フック」との説明がつけられている。

(八) 他業者の参入

被控訴人の旧実用新案権は、昭和六三年一月八日、存続期間満了により消滅したが、その後の平成元年ころ以降、他の業者も、回転着脱方式の替え刃式鋸に参入し、鉤状の掛止め部を有する替え刃を製造、販売するようになった。

うになった。

3  右認定の原告商品及び本件替え刃の販売期間、販売実績、広告・宣伝活動等によれば、他業者が回転着脱方式の替え刃式鋸及びその替え刃を製造、販売し始めた平成元年ころには、原告商品は、「ゼットソー」なる商品名の回転着脱方式の替え刃式鋸及びその替え刃として、需要者の間で広く知られるようになっていたものと認められる。

4  そこで、本件替え刃の商品形態が、掛止め部ないし基部の形状等に独特の形態的特徴を有しており、商品表示性を有するかどうかについて検討する。

この点につき、控訴人は、本件替え刃の掛止め部分ないし基部の形状は、すべて回転着脱方式の替え刃式鋸の替え刃における技術的機能に由来する必然的な結果であるから、出所表示としてはこれを除外すべきであると主張する。

回転着脱方式の替え刃式鋸においては、その技術的機能の制約から、(1)背金の支持部(係止部)と替え刃の掛止め部がそれぞれ円滑に回転運動(回動)をすることができる形状を備えていること、(2) 鋸刃が鋸柄に取り付けられた状態(鋸柄への装着状態)で、背金の支持部に掛け止めされた鋸刃の掛止め部の位置が確実に保持される形状を備えていること、(3) 掛止め部を含む鋸刃基部の全体形状が、右(1)の回転運動を妨げないように形成されていることが必須の要件となる。

そして、回転着脱方式という要請から、右(1)の回転運動の軸となる支持部は側面形状が円形又は上縁側が円弧状とならざるを得ず、掛止め部の下縁側(支持部と直接接触する部分・以下同じ)は、支持部の円周面に沿って滑らかに回転することができるように、当該支持部の半径とほぼ同一の半径を備えた円弧状であることが必要となり、しかも、右(2)の要件を充足するために、掛止め部の下縁側は、替え刃の長さ方向での抜け出しを防止するのに十分な鉤状であることが要求される。ちなみに、本件替え刃においては、小円弧部(半径五mm)がこれに該当する。これに対し、右(3)の要件を充足するためには、掛止め部の背部に連なる上縁側は、回転運動の際に背金の一部と接触して当該回転運動を妨げないような形状であれば、必ずしも円弧状に形成された下縁側と同心円上にある円弧状である必要はないし、鋸刃基部(鋸装着部)側のその余の部分(掛止め部付近)についても、当該回転運動を妨げないような形状であれば、円弧状である必要すらない。したがって、右(1)ないし(3)の要件をすべて充足するためには、掛止め部の形状が、本件替え刃のように同心円上にある小円弧部(半径五mm)と大円弧部(半径一八mm)とで形成される鉤状(被控訴人主張の「フック状」)である必要はない(以上につき、検甲一三、乙二三)。

以上によれば、本件替え刃の基部、特に掛止め部の形状が、回転着脱方式の替え刃式鋸における技術的機能に由来する必然的な、他に選択の余地のない形態であるということはできない。

5  しかしながら、(一) 被控訴人主張の形態的特徴<1>、すなわち、本件替え刃の基部側上方位置に存在する半径一八mmの大円弧部及びこれと同心円上にある半径五mmの小円弧部とで形成されるフック状の掛止め部は、その形状自体、格別特異なものではないこと(乙二二、二三、二七、検甲一三)、(二) 掛止め部を含む本件替え刃の基部側の全体形状も格別特異なものではないこと(前同)、(三) 替え刃の取引者・需要者は、特定の替え刃式鋸の把持柄(鋸柄-需要者であれば自己の有する鋸柄)への装着可能性という観点も商品選択の基準とし、鋸装着部の形態にも注意を払うものと考えられるが、その場合、鋸柄への装着可能性という技術的機能面に着目しているにすぎず、掛止め部を含む基部側の全体形状自体から商品を識別しているとは考えられないこと、(四) 原告商品及び本件替え刃は、外装袋に入れて販売されているところ、本件替え刃を含め鋸柄に装着されて販売される場合には、外装袋の表面には、替え刃が背金に装着された状態での形状が印刷され、替え刃の基部形状が表面からは分からないような形で販売されており、外装袋の裏面の一部及び本件替え刃が替え刃単体で販売されるときの外装袋の表面には、替え刃の全体形状が印刷されているが、これらが印刷されるようになった時期も明らかではないこと、(五) 被控訴人による広告・宣伝の内容を見ても、本件替え刃の基部を含む写真や映像も紹介されているものの、特にその基部形状を強調するようなものではないこと、(六) 被控訴人主張の形態的特徴<2>、すなわち背凹部の存在は、本件替え刃の全体形状からみて目立たない部分であり、取引者・需要者が背凹部の存在によって、商品の出所を識別しているものとは認められないこと、(七) 替え刃の需要者の大部分は、大工職、建具職その他の建築関連業者などの専門職であることがうかがわれ、その取引者・需要者は、替え刃の切れ味、耐久性等の品質、価格をも商品選択の重要な基準とし、鋸刃やその包装袋に付された標章、製造元・発売元の表示等によって、当該商品の品質や出所等を識別しているものと考えられること、(八) 被控訴人主張の形態的特徴<3>、すなわち刃渡り寸法の印刷表示は、そもそも本件替え刃の刃渡り寸法等を説明するものであり、「ゼットソーHI」、「ハード・インパルス」(本件登録商標)という被控訴人の登録商標やゼット販売の商号の一部を含む赤色印刷表示と一体となって、商品の識別機能を果たしているにすぎず、それ自体に自他商品識別力があるとは認められないこと、以上の諸点を併せ考慮すると、被控訴人が主張する本件替え刃の形態的特徴<1>ないし<3>等は、いまだ、それらが本来有する機能や意味(第一次的意味)を超えて、第二次的に商標的な意味を獲得し自他商品識別力を具備するに至っているとは認められない。

したがって、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく被控訴人の主張は理由がない。

そこで、進んで商標権に基づく予備的請求について判断する。

二  争点2(被告標章は本件登録商標に類似するか否か)について

1  本件登録商標は、原判決別紙「商標権目録」記載のとおり「ハード・インパルス」なるものであり、片仮名の「ハード」のあとに、「・」を付けて片仮名の「インパルス」が表記された右傾き・横書きの文字標章であって、「はーどいんぱるす」なる称呼が生じるものである。これに対し、被告標章は、同別紙「被告標章目録」記載のとおり「“SUPER IMPULSE”」なるものであり、欧文字の「SUPER」のあとに、若干間隔(空白)を置いて欧文字の「IMPULSE」が表記された右傾き・横書きの文字標章の左肩に「“」が、右肩に「”」がそれぞれ付された標章であって、「すーぱーいんぱるす」なる称呼が生じるものである。

2  しかるところ、我が国において代表的な国語辞典である岩波書店「広辞苑(第四版)」には、「ハード【hard】<1>かたいさま。きびしいさま。…」、「スーパー【super】<1>『超…』『上の』『より優れた』の意…。」、「インパルス【impulse】(衝撃の意)…」とあり、また、学習用、実用に用いられる研究社「新英和中辞典(第五版)」には、「hard」が「堅い」、「硬質の」、「頑丈な」、「過度の」等、「super」が「過度」「極度」「超越」という意味を持つ語(形容詞)として、「impulse」が「(物理的な)衝撃」、「(外部からの)刺激」等という意味を持つ語(名詞)として収録されていることが認められる(当裁判所に顕著な事実)。これらによれば、少なくとも我が国において、「ハード」や「SUPER」は、物の性状や等級等を表示する一般的な形容詞として、「インパルス」と「IMPULSE」は、「衝撃」を意味する名詞として認識されていることが認められる。

このことに、本件登録商標において、「ハード」と「インパルス」が「・」によって区切られていること、被控訴人らが業界新聞や商品カタログ(甲二〇、乙五五)において、「ハード・インパルス」ないし「ハードインパルス(HARD IMPULSE)」が「衝撃焼き入れ」を意味する旨を説明し、宣伝していることを併せ考慮すると、本件登録商標のうち、その指定商品の分野において取引者・需要者の注意をひきやすく、商品識別力を有するのは「インパルス」の部分であり、この部分を本件登録商標の要部とみるのが相当である。同様に、本件登録商標の指定商品に該当する鋸替え刃の取引者・需要者が、「SUPER」と「IMPULSE」との間に空白のある被告標章を見た場合、「IMPULSE」の部分を商品識別力を有する部分として認識し、「SUPER」の部分については、鋸替え刃の品質、等級を表示する一般的な形容詞として認識するにすぎないものと考えられる。

したがって、本件登録商標及び被控訴人標章における「ハード」、「SUPER」の各部分は、当該商品の品質等を表示するものとして一般的に用いられている語句であり、商品識別機能を有するとはいえず、本件登録商標及び被告標章における自他商品識別標識として機能する部分(要部)は、それぞれ「インパルス」、「IMPULSE」の各部分であると解される。

そうすると、本件登録商標と被告標章の各要部の称呼は、いずれも「いんぱるす」であり、かつ、各要部から生ずる観念は、いずれもインパルス(衝撃)であって、本件登録商標と被告標章とは、その要部である「インパルス」と「IMPULSE」において称呼と観念が同一であるから、取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察すると、類似していると認めるのが相当である。

3  控訴人が指摘する乙五六の登録例のうち「ハードキング」、「ハードタイト」及び「ハードトップ」は、いずれも「ハード」とその余の語句との間に「・」も空白もない「連の語句であるから、「・」で区切られた本件登録商標とは明らかに要部を異にするものである。一方、「HARD HEAD」と「Super Head」とは、二つの語句の間に空白があるものの、商品の品質、等級等を表示する形容詞としてよく用いられる「HARD」ないし「Super」に、これもよく知られた名詞「HEAD」ないし「Head」を結合させた語句であるため、その全体が一体として認識され、類似しないものとして登録された例であると考えられる。

さらに、乙五九の登録例は、「STAR」、「Star」、「SERT」、「LINE」、「ライン」をそれぞれ共通の語句とするものであるが、共通する語句以外の語句である「NEW」、「AMENBO」、「CROWN」、「Golden」、「M」、「CAP」、「OUT」、「ON」、「PRO」、「フレンチ」、「GREEN」は、いずれも指定商品の品質、等級等を表示するものとして一般的に用いられる語句(形容詞)ではない。

したがって、右登録例はいずれも、本件登録商標と被告標章との類否に関する前記判断を左右するものではない。

三  差止請求について

右に判断したところによれば、ハ号物品に被告標章を付して製造販売することは本件商標権を侵害するものである。

一方、控訴人が平成六年一月から平成九年三月までの間業としてハ号物品に被告標章を付して販売していたことは当事者間に争いがないが、控訴人は、平成九年四月以降はハ号物品に被告標章を付していないと主張しており(これに沿う証拠として、乙五四)、同月以降控訴人がハ号物品に被告標章を付して販売していることを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、控訴人は、被告標章を付していないハ号物品の製造販売自体は継続しており、しかも、前記のとおり、被告標章と本件登録商標との類似性を否定して、本件商標権侵害を争っているのであるから、このような控訴人の対応に照らすと、控訴人が、将来、被告標章を付したハ号物品の製造販売を再開し、本件商標権を侵害するおそれがないとはいえない。

したがって、本訴請求のうち差止請求は、本件商標権に基づきハ号物品に被告標章を付して製造販売することの差止めを求める限度で理由がある。

四  争点3(被控訴人らの損害)について

1  前記のとおり、控訴人が平成六年一月から平成九年三月までの間業としてハ号物品に被告標章を付して販売していたことは当事者間に争いがなく、平成九年四月以降控訴人がハ号物品に被告標章を付して販売していることを認めるに足りる証拠はない。

2  証拠(乙五四、六一の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が平成六年一月から平成九年三月までの間に販売したハ号物品の数量及び売上額は、次のとおりである。

なお、証拠(乙六一の一・二)によれば、平成八年一月のハ号物品の販売単価は三一五円であると認められるから、特段の反証のない本件においては、右期間におけるハ号物品一枚の販売単価も右認定の販売単価と同一であると推認すべきである。

(一) ハ号物品のみ

販売数量 五万七六四九枚

売上額 一八一五万九四三五円

(二) ハ号物品(替え刃)を装着した鋸

販売数量 五三六〇枚

売上額(替え刃のみ) 一六八万八四〇〇円

(三) 右(一)及び(二)の売上額の合計

一九八四万七八三五円

3  もっとも、被控訴人は、平成七年度及び平成八年度に行った各市場調査によって得られた量販店における店頭展示率から推計した被告替え刃等の販売数量を基礎とする損害額を主張する。

しかしながら、限られた店舗(七年度調査は四八店舗、八年度調査は一九七店舗)における商品展示率からそれほど正確な控訴人の販売総数量の推計ができるとは考え難く、その調査期間も極く限られたものであること(七年度調査が平成七年四月一日~同月一六日、八年度調査が平成八年六月八日~同年七月七日)も考慮すれば、被控訴人主張の右販売数量推計方法を採用することはできない。そして、他に、ハ号物品の販売数量が前記認定の販売数量を超えることを認めるに足りる証拠はない。

4  本件商標権侵害については、控訴人の業界における地位及び営業努力、被告標章の使用態様(別紙「ハ号物品」記載のとおり、被告標章は、ハ号物品の側面〔片面だけ〕基部側寄りの位置に、控訴人の登録商標で、かつ控訴人の商号の一部である「バクマ」を含む「バクマソー」の下方に小さく表示されていること 〔検甲一、三〕)や、商品自体の性質(ハ号物品は、回転着脱方式の替え刃式鋸用替え刃として、本件替え刃等の他社製品との間に互換性を有すること〔甲二二、弁論の全趣旨〕)等に照らすと、被告標章の使用の態様による本件登録商標の使用料は、売上額の二パーセント程度であると認めるのが相当である。

そこで、前記認定の売上額(一九八四万七八三五円)に二パーセントを乗じて損害額を算定すると、三九万六九五六円(円未満切り捨て)となる。

五  結論

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、ハ号物品に被告標章を付して製造・販売することの差止め及び三九万六九五六円の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、これと一部結論を異にする原判決主文第一ないし三項を右の限度で変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

被告替え刃目録

一 商品各「バクマソー・225替え刃(7寸目)」

商品形態は別紙「ハ号物品」記載のとおり

二 商品名「バクマソー・仮枠330替え刃」

商品形態は別紙「ニ号物品」記載のとおり

<省略>

<省略>

被告標章目録

<省略>

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